• 『サラバ静寂』勝手に応援コラム、スクリーンを飾るアーティスト5選


『サラバ静寂』勝手に応援コラム、スクリーンを飾るアーティスト5選

ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲
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    「あなたにかけた 私の人生 かけたんだもの 割り切れる」という都々逸がありますけれども、それはさておき、映画『サラバ静寂』がいよいよ公開されました。娯楽が禁じられた架空の世界を舞台に、音楽と出会ってしまった男女が“闇ライヴ”を目指すポストアポカリプス。斎藤工さんと灰野敬二さんの名前が横並びになる好機が訪れるなんて、徒らに長生きするのも悪くありません。本当は感想もかねてつらつら劇中の音楽について書き留めたいところでしたが、ユーロスペースでのレイトショー期間中はスケジュールが合わなかったり、チケットが完売したりで一度も観られなかったので、今回は東京再上映の願いを込めて数十組に及ぶ映像出演ミュージシャンの中から選り抜きの5組を紹介します。

    「チラノザウルス四畳半」(’16) /ギターウルフ

    ガレージパンク界の30年選手ギターウルフ先生のアルバム『チラノザウルス四畳半 T-REX FROM A TINY SPACE YOJOUHAN』より、タイトルそのまんまのリード曲「チラノザウルス四畳半」。ロカビリー調のギターフレーズと、相変わらずちっとも耳にやさしくないザラザラギシギシした音質が合体して生まれる“真打ち登場”感がアドレナリンとエンドルフィンの閾値限界まで瞬く間に注入される、3分足らずの清々しさときたら! こんなモンスターを四半世紀以上にわたって何百匹も世に放っている真のバケモノがスクリーンを占拠すると考えただけで血が滾ります。ですので、くどいようですが早く東京で再上映を……願わくば負傷者が出ない程度の爆音で…。

    「お母さん、いい加減あなたの顔は 忘れてしまいました。」(’84) /遠藤ミチロウ

    「あたしおかあさんだから」騒動がTLに流れてきた時はこの曲のアンサーソングかと思ったのですが、もちろんそんなことはなかったです。1984年に発売されたカセットブック『ベトナム伝説』に収録されているこの曲。猛吹雪のごとく唸るギターの和音、?を切り裂くつむじ風のような叫びはミチロウさんが生まれた東北のこの季節を物語り、呪詛や咆哮にも似た歌唱は、寒さで自身の歯がガチガチと鳴る音しか聞こえないほどの真冬の孤独が目に浮かびます。暗闇の中をまさぐって人肌と光芒を探し当てるような、この土着的なパンクの叙情性こそ日本の誇りだと思うのです。ちなみに映画では、“遠藤ミチロウ×オキシドーターズ”で映像出演されています。

    「Cranberry Pie」(’16) /jan and naomi

    GREAT3のjanとnaomiによるアシッドフォークユニット。浮世離れした佇まいや面ざしから膨らむモノトーンの静謐から滲み出す音像は、ミルク色の濃霧や夜気に濡れた深緑の森を想起させます。「Cranberry Pie」は2016年にリリースされたEP『jan,naomi are』の収録曲で、重なる残響の中の奥深くからヘッドフォンの小さな穴までゆらゆら揺れるウィスパーボイスとアルペジオが、およそ人の住まう現実とは無縁の輪郭や線描のないもう世界へと誘ってくれる、幻惑の美しさに満ちた曲です。以前janが参加していたTHE SILENCEでは全ての器官がビビッドな極彩色のサイケデリアに染め上げられる浮遊感に酩酊したものですが、同作を聴いて改めて音楽性の幅の広さに驚愕させられます。

    「気い狂て」(‘81)/INU

    今も昔も大阪はアンダーグラウンドの総本山で、次の瞬間何をするか分からないミュージシャンがライヴハウスに蠢いていて、動員1桁のフロアーを睨みつけているんだろうな、羨ましいなぁと身勝手な幻想を抱く遠因となった町田康(町田町蔵)が率いたINUの唯一のスタジオアルバム『メシ食うな!』の終焉を飾る「気い狂て」。嗚咽と怒号が混在したようなヴォーカルの悲哀と相反して、作為的なスカスカの音塊は殴られた途端に笑いが止まらなくなるほどカラッとしたエネルギーがあふれていて、かき鳴らされるギターの裏側にサンプリングされた相撲の実況の音声はユーモアの化けの皮を隠しきれない虚無感が搭載されていて、音楽が孕む暴力性とカタルシスをまざまざと思い知ったのでした。

    「Fake」(’16)/GOMESS

    ヒップホップにおけるセクシズムが日夜 SNS上でも討論されている昨今ですが、男性ラッパーが女性視点のリリックで綴ったセンシティブな楽曲もあるのです。アルバム『情景 ?前篇-』に収録されているこの曲は、映画『Heavy Shabby Girl』の劇中歌。リバーブのかかったピアノが刻むワルツのリズムの上で踊る情念的なリーディングが綴る、憎悪と恋情の狭間の仮想的な自傷行為と自問自答の羅列は、詩情と呼ぶにはあまりにも剥き出しで、ドリーミーなメロディーとのギャップは、いかに華美に切り抜こうとも内側でグロテスクな駆け引きが息を潜めているというリアルを露わにし、まさに“Fake”というタイトルそのままなのです。

    TEXT:町田ノイズ

    町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。